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総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会 メモ(第4回基本問題委員会  提出資料)

・エネルギー基本問題として、まず最初に検討されるべきはエネルギーの使われ方ではないでしょうか。エネルギーは目的財ではなく、目標を持った社会活動、産業活動、生活行動を実現するための手段の一つとして使用されるものです。したがって、私たちは、どのような社会を実現・維持しようとしているのか、どのような産業構造の元で社会を維持し、生活を成り立たせようとしているのか、どのような生活水準を達成し維持していこうとしているのかといった目的を明確にし、共有すべきでしょう。それぞれに、短期、中期、長期といった時間軸があります。また、充足水準・飽和水準・確定的な構造に近づいているものもあれば、変化が避けられないものもありそうです。本来はまずこのような基本的な構造と目標を踏まえて、エネルギーの需要構造の検討が必要だと考えます。もちろん、最近の世界の喫緊の課題としての地球温暖化問題は、これらの上位概念として位置づけた上でエネルギー問題を考えなければならないことは申すまでもありません。この点で、今回の東日本大震災後の電力危機に端を発した緊急的なエネルギー・電力問題は二度の石油危機でのエネルギー対策立案時よりも数倍厳しい条件の下での対応が求められています。

・政府では、今回の対応に対して、再生可能エネルギー、化石エネルギー、原子力、省エネルギーの4本柱で対応策を検討するとのメッセージが発せられましたが、前の三者がエネルギー供給対策をさすのに対し,後者の省エネルギーは需要サイドの対策をさすものです。私は、まず最初に省エネルギーがありそれを受けてエネルギー供給対策である後の三者が検討されるのが対策検討の流れだと思います。

・一般的に「省エネルギー」とは、二度の石油危機後では「節約・我慢」と同義だとされていました。最近では「エネルギーの効率的利用」といった捕らえ方のようですが、現在施行されている省エネルギー法の正式な名称は「エネルギー使用の合理化に関する法律」となっています。私はこれほど適切な名称は無いと思っています。であるからこそ、上の4本柱という表現ではなく、まずエネルギーを合理的に使用するための規制、誘導、技術開発、消費者の適正な使用を促す方策を徹底した上で、エネルギー供給政策を講じるべきだと思います。そのためには、まず現場で、家庭で、オフィスでどのようにエネルギーが使われているか、すなわちエネルギー消費構造の実態を精査し検討することが先決だと考えます。しかし、残念ながらわが国にはエネルギーの消費構造を経年的に捉えた統計は一部を除いて存在していないのです。特に、最近問題視される私たちの家庭や、オフィス・商店等の業務用エネルギーについては公式な統計が無いのが現状です。京都議定書からいち早く離脱して非難されたアメリカでも、二度の石油危機直後から、国勢調査レベルの詳細なエネルギー消費構造調査が継続的に実施されています。一日も早くこのような統計整備の実現を図るべきと考えます。事あるたびにこのような要望をし続けて30年以上になりました。今度こその思いや切です。

・さて、今回の震災後の家庭を初めとしたエネルギー、中でも電力消費の削減量は想像以上に大きな値を示しました。社会はこれを「省エネルギー」とは呼ばず「節電」と表現しました。確かに、電力供給の逼迫が招いた事態ですからこれはこれで正しい表現ですが、その後「節エネルギー」といった言葉も使われているようです。また、電気のエネルギーとしての特徴に、熱のように簡単には貯めて使うことができないため、ピーク対策が大きな課題となりました。いわゆるkWとkWhの関係です。私は基本的にはピーク対策も広義の意味では省エネルギーだと理解しています。したがって、あまりいろいろな表現はあえてすべきではないのではないかと思います。 ・省エネルギーの促進に果たす効果として①規制②トップの決定③消費者の役割の3つの事例を紹介します。最初の規制は、申すまでも無く法律による規制です。自動車の燃費規制や、家電製品等のトップランナー基準などがあります。これは極めて強力な手法です。次のトップの決定は例えばハイブリッド車が世に出てきた背景には、トップの決定が極めて大きかったと聞きました。当時は売れば売るほど赤字になるといわれ、技術開発、商品化はできたが実際に売るとなるとリスクが大きすぎるといわれていたそうです。しかしトップの決定により市場に投入されこのメーカーは国際的にも大きな評価を得たようです。最後の消費者パワーは私が実際に経験したことなのですが、待機時消費電力の問題提起をした折、業界からは何もそんなに小さな電力消費をとやかく言わなくてもと言った抵抗を受けました。ところが、主婦の方々がプラグを抜いて翌月の電気代が確実に減少したといった声が日増しに高まり、結果としてメーカーからは自主的に待機時消費電力を削減した機器が続々と開発され、いまや世界でもトップの待機時消費電力対策成功国として評価されています。この経験から、一般消費者に正しい理解を得る情報発信とそれを確認できる手段(待機時消費電力の場合は、翌月の料金表だったのですが)があれば大きな効果につながることを確信しました。

・そういった意味からも、エネルギーの合理的な使い方が確認できるような情報の提供や、その評価がわかるような仕掛けが極めて有効だといえるでしょう。そのためにも、電気、ガス、石油といったエネルギーの利用情報を判りやすく伝えるシステムの普及が必要でしょう。それには、エネルギー供給事業者の情報提供への積極的な関与が望まれます。

スマートメータ、HEMSといったシステムがこのような役割に大きく役立つことを期待したいものです。

・最後に、エネルギー供給事業者の今後の新しい役割をお願いしたいと思います。家庭や中小企業、商店等にあってはエネルギーに関しては、大企業やエネルギー多消費企業と違って専門家が関与することはほとんど皆無でしょう。そこで、電力会社やガス会社が専門的見地から総合的な省エネルギーアドバイス、すなわちエネルギーを合理的に使う方法をサポートしてもらいたいと思います。無駄なエネルギーは使わないように積極的に取り組んでもらいたいものです。売れればいいといったスタンスは排除してエネルギーを合理的に使ってもらうことに注力して欲しいと思います。場合によっては、機器の不具合や非効率なことが見つかればそれをメーカーにフィードバックして改善し、より消費者が使いやすく高効率になるような機器開発にまで踏み込んでもらいたいものです。さらに踏み込んで省エネルギーにも深く関与できないでしょうか?もしこのような行動をとることによって、得べかりし利益まで失うことがありうるならば、それは料金に転嫁するといった方策で回収してもいいのではと思います。なぜなら消費者はそれによって支払うエネルギーコストは低減するわけですから、家庭版ESCO事業のようなビジネスモデルでしょうか。 ・これからの日本の社会は、既に始まっている人口減少から遅れて世帯数減少社会へと差し掛かっています、長期的には大きな人口減少社会が待っているわけです。パイが小さくなるわけですから、間違いなくほとんどの事象が右肩上がりから、右肩下がりの時代へと変化するわけです。とりわけエネルギーの世界では、これを加速して更なる右肩下がりの対応が温暖化対策を中心に求められています。さらに今後の途上国の発展による爆発的なエネルギー需要の増大が不可避な状況では、先進国日本としての対応は想像をはるかに超える対応が求められることになるのではないでしょうか。一層のエネルギー利用の合理化手法の開発普及はこのような社会に大きく寄与できると考えます。

・私の少ない経験からもアジア諸国の発展と省エネルギー技術の一足飛びの普及拡大は急務の課題だと考えています。ここでもサプライサイドの解決よりも、まずデマンドサイドを率先すべきでしょう。そのためにはODAの需要サイドへのシフトが有効だと考えます。わが国の温暖化対策の手を緩めるということではなく、それ以上に発展途上国における対策へのより積極的な関与を加速すべきと考えます。このような観点からもわが国のエネルギーの基本問題を考えて、次なる課題に挑戦すべきと考えます。

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