研究所長の鶴崎です。
11月25日に開催された中央環境審議会・産業構造審議会の合同会合(第6回)で、日本の温室効果ガス排出削減目標を2035年度に60%減、2040年度に73%減(いずれも2013年度比)となる直線的な削減経路を軸とする案が提示されました。
私は産業構造審議会の委員として本合同会合に参加して参りました。合同会合はまだ終了していませんが、現時点(11月28日)の所感をここに記録しておきたいと思います。
従来の目標設定のアプローチは対策・施策の効果を積み上げていくボトムアップ型でした。2021年に決定された現行目標(2030年度に46%減~50%減)は、最終的に政治決断によるトップダウンで決まったと認識していますが、途中までボトムアップ型の検討が進められていました。
今回の合同会合では、目標をボトムアップ型で検討するのか、あるいは1.5℃目標と整合的にトップダウンで決定するのか、その方針が明確にならないまま、関係者のヒアリング(第2回~第5回)が続いたと認識しています。先日の第6回会合も会議の中盤過ぎまではヒアリングという形で進行し、意見・質疑が一段落した後、事務局からトップダウンの目標案が示され、五十音順での発言ではなく、恐らく初めての自由討議の時間になりました。
住環境計画研究所では、残念ながら日本全体の削減目標の水準について、定量的裏付けのある検討を行う基盤がありませんので、目標水準の厳しさや妥当性については判断が難しく、今回の会合で2つの研究機関が報告した結果を踏まえて、直線的な経路が妥当だろうという所感を述べることしかできませんでした。地球環境産業技術研究機構(RITE)さん(秋元委員)の報告は少なくとも直線的な経路より上側を、国立環境研究所さん(増井委員)の報告は少なくとも直線的な経路より下側を支持しているように、私には感じられました(誤解であれば申し訳ありません)。
いずれも重要な報告でしたが、発表時間は各8分間と短く、委員からは前提や結果の解釈に対する質問がいくつも出ていました。私は、このような重要な検討結果をもっと早い段階で披露していただき、多様な専門性や経験を持つ委員から出てくる疑問点を丁寧に検討することで、目標の水準の厳しさ(どの経路も大変厳しいと思います)について、委員・事務局・聴講者・関係者の共通認識が形成されていく場にできたのではないかと考え、もっと早く気が付いていれば、と口惜しい気持ちを抱えながら発言しました。
必ずしも裏付けが十分とは言えない状況で、トップダウンで目標値を決めるということは、一体どういうことなのか。しかもそれを政治主導ではなく行政のプロセスで進めるとき、審議会という開かれた場でどのように議論を進めるべきだったのか。恐らく環境省・経済産業省の事務局の皆さんはとても難しい課題に直面していたのだと思います。この間、岸田政権から石破政権への移行もありました。残念ながら私はこうすべきだったというアイディアを持ち合わせておらず、諸外国の議論の進め方など、これから学んでいく必要があると感じています。重要な計画の見直しの議論に関わる機会をいただきながら、自分の知見不足と未熟さを痛感した次第です。
今後、計画の改定案が固まるまで、残された時間は少ないようですが、国民や取り組み主体にどのようなメッセージを発信していくのかが重要になると思います。現時点で思いつく課題を挙げて、締めくくりとしたいと思います。
- 計画の文書では今回、何を選択したのかについて、できるだけ平易な表現で記述すること
- トップダウンの削減目標と、個別の対策・施策のボトムアップで得られる削減余地とのギャップを明確にすること(継続的に)
- 個別の対策・施策の取り組み主体は、常にさらなる深堀の必要性を意識し、可能性を追求すること(継続的に)
- 今回の目標が、どの程度の炭素価格を要求する厳しさなのかをモデル分析等によって示し、取り組み主体に“内部炭素価格”の採用・改定を促すなど、トップダウン目標と整合的といえる意思決定の目安を示すこと(RITEさんのモデルで導き出される“限界削減費用”は1つの目安と考えています。)
- 計画の進捗に関するフォローアップ方法を一から考え直すこと