太陽光発電システムの余剰電力買取制度やその後を引き継いだ再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)の導入、また2020年、2030年に新築住宅のゼロエネルギーハウス(ZEH)化を目指す支援制度の後押しもあり、太陽光発電システムはここ10年で大きく普及拡大し、設置件数は2018年度時点で累計約250万件(住宅総数の約5% )となっている。
一方で、余剰電力買取制度開始から10年目にあたる2019年は、10年間の買取期間を順次満了する物件が出現し始める最初の年であり(2019年は卒FIT約53万件)、また、新規に契約する顧客にとっては、2019年以降のPV電力の買取価格は、商用電力料金と同等あるいはそれ以下になると想定される 。そのような住宅では、発電した分を自家消費したほうが経済的に有利となることから、今後は、自家発電の余剰分を蓄電して消費する住宅が増えてくると考えられる。他方で、地震や近年多発する台風などの自然災害に対する備えの観点から、自立運転可能な発電設備と蓄電設備(定置型蓄電システムやV2H等)の両方を備えた物件も多く提案されはじめている。
今後は発電設備や蓄電設備を備え、自家発電・消費する住宅が増える可能性があり、ますます蓄電設備単体や住宅全体でどの程度の性能を発揮するかが重要となるだろう。ただし、現時点では蓄電設備単体を評価する規格等はあっても、住宅の負荷変動を考慮して、蓄電設備を含む住宅全体でエネルギー性能を統一的に評価するようなものはどこにもない。公的なものとしては、国土交通省と経済産業省が、住宅のエネルギー消費性能を評価する指標として、エネルギー消費性能基準を規定しており、エネルギーを要する主な住設機器を対象とした一次エネルギー消費量の計算法を構築している。既にPVについては、住宅に設置した場合の発電量や自家消費量を計算する方法は確立されているものの、蓄電システムを併用する場合の計算法はない。
このような背景から、近年の蓄電システムの普及状況を鑑み、蓄電システムを備えた住宅の一次エネルギー消費量への影響を評価・検討するため、定置型蓄電システムの計算法を構築する上で必要となる基礎情報を整備することを目的とした調査を行っている。本報では、建築基準整備促進事業 の一環として実施した調査結果に基づく近年の蓄電システムの市場動向、並びに現在検討中の計算法の概要について報告する。
- 論題
- 家庭用蓄電システムの動向 ~一次エネルギー消費量の計算に向けた取り組み~
- 著者
- 中村美紀子, 岡本洋明
- 掲載誌
- 建築環境・省エネルギー情報IBEC, No.232, Vol.40-3, p.8-13(2019年12月号)