2019年11月から太陽光発電(以下,PV)の余剰電力買取期間が順次終了した世帯(以下,卒FIT世帯)が出てきている.卒FIT世帯においては,自家消費しきれない余剰電力は小売電気事業者等に売電することが基本となり,各事業者から様々な売電単価が提示されているが,今までの買取単価と比較して安価となることから余剰電力の自家消費をいかに増やすかが重要になっている.
PVの余剰電力の活用方法としては,蓄電池や電気自動車など電気として貯める「蓄電」が注目を集めているが,ヒートポンプ給湯機(以下,EC)を使って余剰電力を熱に変換して貯める「蓄熱」もある.
2019年に公表された「卒FITに向けた余剰電力の自家消費におけるエコキュートの有用性の評価」(※)では,シミュレーションによりエコキュートの最適制御運転と昼間蓄熱運転の有用性が確認された.特に,昼間蓄熱運転に関してはコントローラーの時刻変更をするだけで簡易に運転方法を変更することができるため,世の中へ実装され易く即効性のある対策として期待される.
そこで,本論文ではPV及びECを設置している戸建住宅に計測器を設置し,ECの昼間蓄熱運転による省エネ,自家消費率の向上効果等を評価する.
本論文では調査世帯が実際に住んでいる実使用環境における実測を行った.計測世帯は 1 件かつ冬季の結果のみである点に留意する必要があるが,ヒートポンプ給湯機の昼間蓄熱運転による PV 発電量の自家消費率等への影響を評価し,下記の結果を得た.
・昼間蓄熱運転による自家消費率は 83%と夜間蓄熱運転による自家消費率 23%に比べ大きく向上した.
・外気温,給湯熱負荷の影響を統制した昼間蓄熱運転のシステムCOPが夜間蓄熱運転のそれに比べ12%向上した.
・東京電力エナジーパートナーの料金メニューを用いて昼間蓄熱運転の経済性評価を行ったところ,夜間蓄熱運転のスマートライフSから昼間蓄熱運転のプレミアムSに変更することで,調査世帯の収支は改善されることが分かった.
・数年後には,新築住宅においても昼間蓄熱運転を選択した方が経済的となる世帯が出てくる可能性があることが分かった.
・沸き上げ終了目標時刻の設定は PV 設置方位などの設置条件や世帯の消費電力量によって異なるため,世帯ごとに最適な設定を行う必要がある.
昼間蓄熱運転への変更に当たり,設定の変更は非常に簡単だが,リモコンに表示される現在時刻が本来の時刻とずれるため,ユーザーがリモコンの時刻を日常生活の時計として使用している場合は注意が必要であるため,リモコンの機器開発が望まれる.
※ ヒートポンプ給湯機の有効活用検討会,卒FITに向けた余剰電力の自家消費におけるヒートポンプ給湯機の有用性の評価報告書,2019年11月
- 論題
- 実測によるヒートポンプ給湯機の昼間蓄熱運転による自家消費等への影響評価
- 著者
- 水谷傑
- 掲載誌
- 第40回エネルギー・資源学会研究発表会講演論文集, pp.410-415, エネルギー・資源学会, 2021年8月