京都議定書の第一約束期間を迎え,いよいよ今年の秋までには,2008年の実績が公表され,評価が始まることになる。2008年度は幸か不幸か,世界同時不況の波を受けて,経済活動は大幅に減退を余儀なくされた。当然これを受けて,消費活動も縮小したであろう。これはエネルギー消費の上では減少傾向をもたらすことになるに違いない。ということは,エネルギー起源の温暖化ガスであるCO2の排出量の減少につながるはずだ。しかし,何となく割り切れない気がするのは私だけではないであろう。社会が疲弊して,結果として温暖化ガスの排出が減ずることを願う人はいないであろう。そのためには改めて「省エネルギー」の可能性を総点検すべきである。
温暖化ガス削減には省エネルギーとともに,新エネルギーへの期待も大きい。わが国がこの二つの命題に本格的に取り組み始めたのは,1973年に始まる二度の石油危機からであったといってよい。政府はこの二大課題を徹底的に追求することを目的に,新エネルギーの開発には「サンシャインプロジェクト」を,省エネルギーの振興には「ムーンライトプロジェクト」の名前を冠して多くの調査研究が実施され,新しい技術開発が進展したことをご記憶の方も多いだろう。両者は車の両輪に喩えられたが,ネーミングから来るイメージは,新エネルギーが明るく力強い感じを抱かせるのに対して,省エネルギーのほうは何となく暗くて,太陽に下支えされる弱々しいイメージを持った記憶がある。もちろん両者とも重要な役割を担っていることは言うまでもないが,省エネルギーの役割のほうがずっと大きいと思っている。
昨年秋より,資源エネルギー庁に省エネルギー・新エネルギー部長の私的諮問研究会として「省エネ化と”省エネ産業”の展開に関する研究会」がスタートした。”省エネ産業”という言葉が公式な場で使われるのはこれが初めてのような気がする。改めて考えると,もっと昔からあってもよかったような名前だ。ここが省エネルギーの面白いところかもしれない。
省エネルギーは,製造過程から,製品レベル,製品の使用段階まであらゆる局面で実施される行動を指しているのに対し,新エネルギーは太陽電池や風力発電に見られるように商品やシステムのレベルでの対応に特化した理解がもっぱらなような気がする。この違いは,後者が明確な目標,たとえば機器側の発電能力や石油代替効果で論ずることが可能なのに対し,省エネルギーはまずベースラインを明確にした上で,最終的には計測検証が行われないと評価しづらいところにあるのではないだろうか。とはいえ,省エネルギーは誰でも参加できる最も有効なエネルギー利用策である。”省エネ産業”をどのように定義づけるかは簡単ではないが,この分野でのわが国の位置づけは,製品レベルでは間違いなく世界のトップレベルにあると言ってよい。それらをシステム化,統合化する技術はどうであろうか? さらにビジネスベースで省エネを普及させる仕組みはどうだろうか?
この研究会の進行役を預かる立場として,夢のある”省エネ産業”モデルを提案できればと考えている。