ソーラークリニックでは太陽光発電の発電量シミュレーションを提供している。 全国約840地点から最寄り地点を選択し、太陽電池の容量、方位(8方位)、角度(10~40度)を選択すれば、 1995年から前月(可変)までの予想発電量が計算できる。
他にも収支計算などのシミュレータを提供しており、利用頻度は月に1万回近くに達している。 現在、Googleで「発電量+シミュレーション」をキーワードに検索すると1番最初に出てくる。 これだけ使用していただいているので、本シミュレーションの結果がメーカーサイトの シミュレーション結果と比べてどうなのか、気になる方も多いであろう。
あらゆる条件で比較することは大変なので、ここでは条件を絞らせていただく。
計算条件の違いを確認しておこう。まず、日射量データは以下のようになっている。
出所 | |
---|---|
シャープ | NEDO全国日射関連データマップの日射量データ(1961~1990年までの平均) |
三洋電機 | (財)日本気象協会「日射関連データの作成調査」(平成10年3月) |
京セラ | (財)日本気象協会「日射関連データの作成・調査」(平成10年3月) |
三菱電機 | (財)日本気象協会「日射関連データの作成調査」(平成10年3月) |
ソーラーフロンティア | (財)日本気象協会「日射関連データの作成調査」(平成10年3月) |
ホンダソルテック | (財)日本気象協会 MONSOLA |
サンテックパワー | (財)日本気象協会のデータ |
ソーラークリニック | 気象庁観測データ(1995年~)に基づく独自推定 |
サンテックパワーは不明瞭な記載だが、他のメーカーは同じデータのようである。 これはNEDOの委託調査で日本気象協会が作成したMONSOLA(現在はMONSOLA(05)としてデータが追補されている。) である。1961年から1990年の30年間の観測データを基にしている。このデータは、JIS C 8907:2005 「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」で推奨されているデータであり、各社が利用するのは妥当な判断である。
ソーラークリニックは上述のように、1995年以降の観測データを用いているため、平年値とは期間が全く異なる。
また、日射量の推定方法(日射量を観測していない地点がほとんどであるため、推定が必要)もMONSOLAと異なる。
※ソーラークリニックでの推定方法はこちらを参照
次に損失の想定である。
温度上昇損失 | パワコン変換損失 | その他の損失 | 総合損失 | |
---|---|---|---|---|
シャープ | 10%~20% | 6% | 5% | 20%~29% (年平均24.1%) |
三洋電機 | 6%~12% | 5.5% | 5% | 16%~21% (年平均18.3%) |
京セラ | 10%~20% | 6% | 5.35% | 20%~29% (年平均24.4%) |
三菱電機 | 10%~20% | 2.5% | 7% | 18%~27% (年平均22.9%) |
ソーラーフロンティア | 10%~20% | 5.5% | 5% | 19%~28% (年平均23.7%) |
ホンダソルテック | 12.5% | 7% | 7.5% | 25% (季節差不明) |
サンテックパワー | 記載なし | 5.5% | 記載なし | 記載なし |
ソーラークリニック | - | - | - | 30% (年間一定) |
※年平均値は季節別値の単純平均値である。
メーカー間で差があるところに注目しよう。温度上昇損失は三洋電機のHIT太陽電池(単結晶とアモルファスのハイブリッド) の場合、冬(12月~2月)に6%、夏(6月~8月)でも12%と、シャープや京セラなどよりも4%~8%も小さい。パワコンの変換 効率は三菱電機が抜けている。その他の損失を合わせた総合損失でみると、三洋電機が18.3%で最小である。他の5社間の差は それほど大きくはない。
いよいよ発電量の結果である。太陽電池容量を統一できなかったため、1kWあたりで比較する。
1kWあたりの年間発電量 (kWh/kW/年) |
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シャープ | 1,035 |
三洋電機 | 1,116 |
京セラ | 1,032 |
三菱電機 | 1,038 |
ソーラーフロンティア | 1,040 |
ホンダソルテック | 997 |
サンテックパワー | 1,032 |
ソーラークリニック | 1,004 (1995~2009年平均) |
三洋電機が1,116kWhで他社より8%程度高い数値となっている。ホンダソルテックが997kWhでやや低い。 その他のメーカーは同じ程度である。しかし、ホンダソルテックが低い数値となったことには疑問がある。 日射量データは他社と同じで、損失の前提もそれほど変わらないからである。当方で検算してみると 1,030kWh程度になった。サンテックは損失の前提がはっきりしなかったが、この結果をみると、京セラ など他社の平均的な水準と変わらないと想定しているようだ。
ソーラークリニックでは1,004kWhとなった。ホンダソルテックは疑問符がつく結果なので、保留しておくと、 各社のシミュレーション結果はソーラークリニックよりも3%程度高い(三洋電機は11%)。
この結果をどのように解釈すべきか。メーカーは強気なシミュレーションをしているのであろうか。 登録発電所の発電実績を基準発電量(当サイトの予測発電量)と 比較すると、むしろソーラークリニックの総合損失の想定値30%(システム出力係数0.7)がやや過大になってきている かもしれない(2013.12.21~0.8をデフォルトに変更)。いずれ詳しく紹介したいが、最近のデータをみていると、総合損失は22%程度にまで低下してきている。 しかも、年々改善されている。ただし、ソーラークリニックの登録発電所は経過年数が短いところが多く、 長期使用時の性能低下はあまり反映されていない可能性がある。
以上から、メーカーサイトでのシミュレーション結果については、これまでに実績のあるメーカーについては、 信頼して良いと考えられる。ただし、販売店のシミュレーション結果はメーカーサイトと異なる可能性もあるので、 前提条件には常に気を配りたいものである。
最後に、ソーラークリニックを含め、これらのシミュレーションは日陰の影響を想定していないので、個別の設置環境 にも十分な注意が必要である。
[2010.8.26]初稿